[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。





第十一夜




 どうして、俺だけじゃなかった。
 どうして兄貴まで、この家に生まれたのか。
 兄貴が、もっと別な家に生まれて、ちゃんと姫と出会っていたら、きっと二人は恋に落ちた。
 それは紛れもなく運命で、紛れもなく必然で。
 誰からも祝福されて、幸せに暮らすんだ。



 幾度となく思い描いた、俺の理想だ。



 でも…



 この家に生まれなければ、兄貴と姫が出会うことはなかったかもしれない。
 それもまた、運命で…。




 俺の肩口に顔を伏せて、兄貴が泣いている。
 泣くなんて、武士らしくない。
 だから、泣き顔なんて、誰にも見せられない。
 例え弟の俺でも。

 兄貴の涙を見たのは、母上が死んだとき以来だ。

 姫に仕える、ずっと前のことだ。

 それ以来、兄貴が泣く事はなかった。
 それは、俺も同じだけど。




「…やっと、言ったな」

 兄貴の肩を軽く叩いて、言ってやった。
 兄貴の本音を聞いたことで、何故だか気持ちが落ち着いていた。
 さっきの怒りも、無くなった訳じゃないけど、影を潜めている。

「言うつもりなど、なかったがな」

 お前のせいだと、鼻声が返ってきた。

「墓場まで、か?」
「悪いか」
「嫁は取らないつもりだったんだな…」
「悪いか」
「家督は誰が継ぐんだよ」
「お前が継げばいい」
「何言ってやがる」

 いつもより弱気な兄貴が、少しだけ可笑しい。
 そういえば、小さい頃は案外弱虫だった。

「姫に、伝えるつもりは?」
「それはない」
「即答かよ」

 そのうち、泣き終えた兄貴が顔を上げた。
 すぐにそっぽを向かれて、どんな顔をしてるかは分からなかった。

「姫は、望んで殿山に嫁ぐだろう」
「だろうな」
「その決意を、揺るがすわけにはいかない。…まぁ、俺如きが姫の気持ちを変えることなんて、出来はしないだろうが」

 そこで鈍感ぶりを発揮しなくてもいい。
 でも、そうだろう。
 姫は、俺達に似て、頑固だ。

















NEXT









2012/2/19