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どうして、俺だけじゃなかった。
どうして兄貴まで、この家に生まれたのか。
兄貴が、もっと別な家に生まれて、ちゃんと姫と出会っていたら、きっと二人は恋に落ちた。
それは紛れもなく運命で、紛れもなく必然で。
誰からも祝福されて、幸せに暮らすんだ。
幾度となく思い描いた、俺の理想だ。
でも…
この家に生まれなければ、兄貴と姫が出会うことはなかったかもしれない。
それもまた、運命で…。
俺の肩口に顔を伏せて、兄貴が泣いている。
泣くなんて、武士らしくない。
だから、泣き顔なんて、誰にも見せられない。
例え弟の俺でも。
兄貴の涙を見たのは、母上が死んだとき以来だ。
姫に仕える、ずっと前のことだ。
それ以来、兄貴が泣く事はなかった。
それは、俺も同じだけど。
「…やっと、言ったな」
兄貴の肩を軽く叩いて、言ってやった。
兄貴の本音を聞いたことで、何故だか気持ちが落ち着いていた。
さっきの怒りも、無くなった訳じゃないけど、影を潜めている。
「言うつもりなど、なかったがな」
お前のせいだと、鼻声が返ってきた。
「墓場まで、か?」
「悪いか」
「嫁は取らないつもりだったんだな…」
「悪いか」
「家督は誰が継ぐんだよ」
「お前が継げばいい」
「何言ってやがる」
いつもより弱気な兄貴が、少しだけ可笑しい。
そういえば、小さい頃は案外弱虫だった。
「姫に、伝えるつもりは?」
「それはない」
「即答かよ」
そのうち、泣き終えた兄貴が顔を上げた。
すぐにそっぽを向かれて、どんな顔をしてるかは分からなかった。
「姫は、望んで殿山に嫁ぐだろう」
「だろうな」
「その決意を、揺るがすわけにはいかない。…まぁ、俺如きが姫の気持ちを変えることなんて、出来はしないだろうが」
そこで鈍感ぶりを発揮しなくてもいい。
でも、そうだろう。
姫は、俺達に似て、頑固だ。
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2012/2/19