幕間第二十四巻
〜逃げる二人〜






「やれ、やれ」


 頭の上から声がして、体の力が抜けた。
 そうして大きく深呼吸をする。

「大丈夫、ですか」
「何とか…」

 息が切れそうなくらい走った。
 走って茂みに逃げ込んで、やり過ごした。



「おい、こっちはどうだ!?」



 遠くの方で声がして、また全身に力が入る。
 強張る私の身体を、薬売りさんは袖で隠すように包み込んでくれた。
 その手にも、力が入っている事がわかる。

 モノノ怪相手には決して屈しない薬売りさんも、十人近い人間の男はまともに相手をしたくないらしい。






 山道を歩いているところを、賊に襲われた。
 周囲を取り囲まれて、お金と、私を置いていけと脅された。

 薬売りさんははっきりと断って、札を投げつけた。
 男達が怯んだ隙に、道を外れて暗い森の中へ入って、どうにか男達を撒こうと走り続けた。

 私の手を、しっかりと掴んで。

 暫く走って、人の背丈ほどの段差の下の茂みに身を隠した。
 ちょうど、岩に窪みがあって、茂みと岩の間にすっぽりと隠れる事ができた。



 薬売りさんの微かな息遣い。
 鮮やかな着物越しの上下する胸。
 背中に感じる両腕の重み。


 守ってくれている。





 声が遠のいてからも暫く、そこから動く事はなかった。
 否。
 張り詰めたまま、動けなかった。



 不意に、薬売りさんが長く息を吐いて、身体の力を抜いたのが分かった。
 背中の重みが和らぐ。


「もう、出てもいい頃合、ですかね」

 潜める事のない声が降ってきた。
 それで漸く、緊張の糸が切れた。

 そうして我に返る。

「ご、ごめんなさい…私」

 いつまで張り付いているつもりだろう。
 自分でもそう思う。
 慌てて身体を離して、窪みから出ようとする。

さん」

 静かに制されて、引き戻された。





【分岐】
選択してください。

壱:「やはりもう少し、ここに居たほうが、いいようですね」

弐:「少し、休んでいきませんか」